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大川わたり

山本一力(祥伝社文庫)。

よんどころない事情で、大川(隅田川)を深川のほうに渡れなくなった若い大工職人の噺。大川を渡れない、というしばりを設けるだけで、いろいろな人の動きや話の展開が生じるという構造が面白い。

やくざ、代貸、大工の親方、呉服屋一同、主人公が世話になる剣術指南、そして3回しか登場しない冷や水売り(冬は汁粉売り)など、登場人物はいずれも善も悪も小ざっぱりとしていて、出方にも無駄がない。徒な情緒の描写をできるだけ押さえて、かつ泣かせるところは泣かせるところ、読んでいてとても心地よかった。渋い噺家の「芝浜」を聴いたかのような読後感。

あと、展開が予想できるどんでん返しも、この噺の中では、その大雑把さが却って爽やかな感じがした。この作家のものは、直木賞を取った「あかね雲」を読んでいないのだが、「損料屋喜八郎始末控え」(文春文庫)もシンプルな文体と構造の中ににじみ出る情感が面白かったし、きちんと追いかけてみたいと思う。

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